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お客様紹介:化学分析で未来の環境技術を切り拓く──ブラザー工業株式会社

2026年4月2日

 

ブラザー工業株式会社は2018年に「ブラザー環境ビジョン2050」を策定しており、CO2排出削減、資源循環、生物多様性保全を重要課題と位置づけています。同社で、長年にわたり化学分析を生かし、環境にやさしい事業展開に貢献してきた気候変動対応戦略部 環境技術プロジェクト長 北原 武夫 氏に、同社の環境への取り組み、北原氏の貢献、化学分析の重要性について伺いました。

 

ブラザー工業株式会社 気候変動対応戦略部 環境技術プロジェクト長 北原 武夫 氏

 

 

1908年 ミシンの修理業からスタートしたブラザー工業株式会社

 

 

 

 

気候変動対応を積極的に推進

1908年 ミシンの修理業からスタートしたブラザー工業株式会社。現在では、家庭用・工業用ミシンのほか、プリンターや複合機、工作機械など幅広い領域で事業展開する企業となっています。ブラザーグループでは、2018年に策定し、その後数度にわたって改訂された「ブラザー環境ビジョン2050」に基づく活動を推進していくために、「気候変動対応戦略部」を2021年10月に新設しました。

2030年度中期目標の達成に向けて、CO2排出削減や資源循環、自然共生サイトの認定取得、太陽光パネル設置、梱包の小型軽量化など、実効力ある環境施策を展開しています。また、2025年には機械部品の切削加工を行う同社のコンパクトマシニングセンタ「SPEEDIO(スピーディオ) Sシリーズ」が、気候変動アクション環境大臣表彰において、開発・製品化部門の緩和分野で大賞を受賞しており、製品開発においてもCO2削減が推進されていることが分かります。

家庭用・工業用ミシン、プリンターや複合機のほか、工作機械の領域でも事業展開。写真はコンパクトマシニングセンタ「SPEEDIO Sシリーズ」

 

しかし、同社が環境問題に積極的に取り組むようになったのは最近のことではありません。かねてより、公害防止、製品含有化学物質管理、VOC(揮発性有機化合物)やエミッション(環境放出)、LCA(ライフサイクルアセスメント)など、地球環境に配慮した事業展開を進めてきました。

環境に対する北原氏の貢献

北原 武夫氏はこのブラザー工業株式会社において、30年近くにわたり、環境技術や分析に関わってきたエキスパートです。環境計量士と臭気判定士でもある同氏は、地下水や工場排水などの分析から環境分析に携わるようになりました。21世紀に入り、世界的に製品含有化学物質規制の動きが進むのを感じ取ると、いち早く「規制されることが見込まれる物質」の分析手法を開発してきました。たとえば、かつて可塑剤などとして使用されてきたフタル酸エステルは、RoHS指令では2017年から4種類について濃度規制が設けられていますが、2008年頃にはすでに測定法開発に取り組んでいたと言います。

このような実績から、北原氏は米国カリフォルニア州のProposition 65や、各国RoHSなど製品含有化学物質管理の専門家として知られるようになり、様々な業界団体において規格化や測定法の標準化に携わるようになりました。たとえば、国際電気標準会議 (IEC) 内の委員会の1つ IEC TC111 WG3では、IEC 62321シリーズという、RoHS(特定有害物質の使用制限)指令やREACH(化学物質の登録、評価、認可、制限)規制で規制されている化学物質等の測定方法を開発しています。北原氏はIEC TC111 WG3の「国際エキスパート」と認められています。国際会議にも参加し、規格策定にも直接携わっています。

 

環境ラベルの認証取得:積極的な環境対応

法律等によって定められた最低限の規制に対応するだけではありません。ブラザーグループでは、より積極的な環境対応も行っています。その1つが環境ラベルの取得です。環境ラベルとは、環境負荷の低い製品につけられるマークのことです。世界初の環境ラベルは1978年に西独で導入された「ブルーエンジェル (Blauer Engel)」だと言われています。海外からの売り上げが8割以上を占める同社では、日本のエコマークだけでなく、ブルーエンジェルやその他各国の環境ラベルを取得しています。

それぞれの環境ラベルごとに違いはありますが、プリンターや複合機においては、VOC、粉塵、オゾンなど、化学物質の放出量や、特定の化学物質の含有制限などが基準の1つとして定められるのが一般的です。このほか、リサイクル性や再生材の利用比率なども項目に含まれることもあります。放出量が基準以下になっていることや、特定の化学物質が含まれていないことを第三者試験機関などによる測定で確認する必要があります。ブルーエンジェルを例にとると、VOCについては、C6からC16の間に出てくる有機成分の総量を測定する必要があります。ベンゼンやスチレンについては個別に基準があります。環境ラベルの認証取得をきっかけとして、エミッションの技術を身に着けてきました。

 

環境分析で長年使われてきた分析装置とは

北原氏が公害防止、製品含有化学物質管理、環境ラベル認定取得などに必要な分析において、長年活用してきたのが、アジレント・テクノロジーのガスクロマトグラフ (GC) やガスクロマトグラフ質量分析計 (GC/MS) です。アジレントが会社分割によって誕生する前の20世紀末には「HP 5890 GC」を使って、地下水の汚染防止のための分析をしていたと言います。その後、化学物質規制に伴う分析にあわせて「Agilent 6890 GC」と「Agilent 5975 GC/MS」、Gerstel社の加熱脱着装置を組み合わせたGC/MSシステムを導入。プリンター等から発生するVOCの分析が盛んになると「Agilent 7890 GC」と「Agilent 5977 GC/MS」、およびGerstel社の加熱脱着装置を組み合わせたGC/MSシステムを活用。さらに、IEC TC111 WG3で分析法検討が行われRoHS改正に向けた優先評価物質の分析に対応すべく、最近では、「Agilent 8890 GC」と「Agilent 5977 GC/MS」、Gerstel社の加熱脱着装置を組み合わせたGC/MSシステムも導入しています。また、フタル酸エステルを手軽に分析するため、「Agilent Intuvo 9000 GC」と「Agilent 5977 GC/MS」、フロンティア・ラボ株式会社熱分解装置を組み合わせたGC/MSシステムも活用しています。

 

Agilent 8890 GC と Agilent 5977 GC/MSを組み合わせたシステムは、RoHS改正に向けた優先評価物質への対応を目的に導入(※写真は弊社のものであり、ブラザー工業様で稼働中のものとは異なります)

 

環境ラベル取得にあたって必要な分析は社外の検査機関に委託していますが、環境ラベル取得後も安定して稼働するかを確認するため、気候変動対応戦略部でも品質管理部門と協力し、製品の抜き取り、環境放出のチェックなどをしています。

ヨーロッパの厳しい環境基準に挑む | Hear your ideas. | ブラザーグループSDGsスペシャルサイト”ブラザーSDGsストーリー” (ページに掲載されている動画にアジレントのGC/MSで測定している様子が紹介されています)

長年アジレントのGCやGC/MSを使用している北原氏は、アジレントの装置について、「基本機能は維持しながら、性能や使い勝手はバージョンアップされている」と、そのメリットを挙げます。また、「IEC TC111 WG3における測定法の確立にも、アジレントの装置を活用してデータを取得してきました。規格化にあたっては、各社で分析したデータを持ち寄って、結果を比較することもあります。アジレントの装置は世界中で広く使われていると感じました。」と話しています。

 

今後の課題:スコープ3の排出削減を目指して

気候変動対応戦略部として重要視するテーマとして、スコープ3における温室効果ガス削減があると言います。スコープ3とは、自社の活動に関連する他社の温室効果ガス排出量を指します。北原氏は環境技術や分析に加えて、2000年頃から製品のCO2排出量の算定方法と可視化の議論に関与しており、ブラザーグループ内でLCAを推進してきました。LCAとは、原材料調達から廃棄・リサイクルまで製品の全過程における環境負荷を数値で評価することです。

スコープ3の排出量削減とその定量評価のためにはサプライヤーとの連携がカギになりますが、北原氏はここに関心があると言います。「電力使用量のデータを収集しようとしたときに、サプライヤーのすべての配電盤に電力計を設置するのは非現実的です。材料メーカーなど、上流からのデータを、下流のメーカーとも共有する必要があります」と、北原氏は語ります。

北原氏は社内でのLCA推進にとどまらず、業界団体での活動を通じて、より良い社会の実現にも生かそうとしています。たとえば、Green×Digitalコンソーシアムにおいては、サプライチェーンCO2排出量の見える化や、環境活動データの価値化に取り組んだほか、2024年11月にアゼルバイジャンで開催されたCOP29(国連気候変動枠組条約の第29回締約国会議)にも参加しました。

化学分析への理解が環境対応を支える

最後に、ブラザーグループが環境規制や製品含有化学物質管理に迅速に対応できた理由を尋ねたところ、北原氏はこう答えてくださいました。

「上司に恵まれていたからこそ今の仕事ができ、成果を挙げられたと思います。化学分析に対する理解のある上司の支えで、アジレントのGC/MSを含む様々な分析機器導入を後押ししてもらえました。その時々のニーズにあわせて必要な分析装置を導入できたことで、化学分析の知見を高めることができました。」

 

 

ブラザー工業株式会社

本店所在地:愛知県名古屋市瑞穂区苗代町15番1号

創業:1908年

設立:1934年

事業概要:

プリンティング・アンド・ソリューションズ事業:プリンター・複合機、ラベルプリンターなど

インダストリアル・プリンティング事業:コーディング・マーキング機器、デジタル印刷機、ガーメントプリンターなど

マシナリー事業:工作機械、工業用ミシンなど

ニッセイ事業:ギアモータ、高剛性減速機、歯車など

パーソナル・アンド・ホーム事業:家庭用ミシン、カッティングマシン、昇華転写プリンターなど

 

 

本記事に掲載の製品はすべて試験研究用です。診断目的にご利用いただくことはできません。
(Not for use in diagnostic procedures.)

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