|
2025年6月30日
歴史的な背景から、早くから環境問題への関心が高い三重県。三重県 環境生活部の外郭団体として、1977年に設立(*1)されたのが三重県環境保全事業団(事業団)です。環境汚染を防止し、生活環境の向上を図るとともに、自然環境を保全等するため、環境保全事業を通じて県民の健康で文化的な生活の向上に寄与することを目的とした団体です。事業団では、2013年頃からPFAS(ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の総称)の分析を受託しており、水道水、環境水、排水、土壌、作業環境、排ガスなど、様々なサンプル中のPFAS分析の実績を積み上げてきました。事業団の科学分析部 部長 古川 浩司 氏、同部 第一分析課 課長 瀬古 直樹 氏、同部 第二分析課 企画開発チーム チームリーダーの橋本 真 氏に、PFASを中心とした事業団の科学分析事業について伺いました。
*1 財団法人として設立。2013年に一般財団法人に移行

左から、第二分析課 企画開発チーム チームリーダーの橋本 真 氏、第一分析課 課長 瀬古 直樹 氏、科学分析部 部長 古川 浩司 氏
まもなく設立50年を迎える三重県環境保全事業団ですが、その前身は社団法人 三重県環境衛生検査センターです。1967年の設立当初は他に検査機関が少なく、三重県内の水道水の検査を一手に引き受けていたと言います。事業団のなかでも科学分析事業は最も歴史の長い事業です。その事業団の科学分析事業において、最近、特に依頼が増えているのがPFAS分析です。
PFASとは、ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物のことで、その数は数千種類とも1万種類以上とも言われています。これらの有機フッ素化合物は、その難燃性、耐油性、耐水性などの特徴から、日用品から工業製品まで、幅広い製品で使用されてきました。自然には分解しにくく、人体や環境に長く留まることから「永遠の化学物質」とも言われます。人体や環境への影響が懸念されており、近年、その製造・輸入が規制されたり、水道水などの管理目標が設定されたりしています。
事業団では「PFAS」という言葉がニュースなどで取り上げられることの少なかった2013年頃から分析を行ってきました。「当時はPFASの分析依頼を受けることはまれでしたが、将来的に重要なテーマになると考え、分析手法の開発などを進めていました」と、古川氏は振り返ります。その後、欧州を中心にPFASの規制が進み、現在では日本でも水道水について、PFASの水質管理目標が設定され、公定法も定められるようになりました。さらに、2026年4月からは、PFASの濃度が水道法上の水質基準へと引き上げられ、PFAS分析のニーズはますます高まることが見込まれます。
PFAS分析の課題とは?
公定法により、使用する装置、分析手法、測定項目等が明らかな水道水は、比較的容易にPFAS分析を行うことができます。しかし、製品や材料中のPFAS分析では技術的に難しい要因がたくさんあるほか、かなり低い濃度までの分析が求められることが多いと言います。古川氏は、「抽出工程の違いにより、分析機関によって分析結果がばらつくことがあります。」と言います。また、材料は千差万別なので、ある材料ではうまく機能する抽出方法でも、他の材料には適用できないこともあります。これ以外にも、凍結粉砕の方法によって結果がばらつくこともあります。古川氏は、「事業団では、このような情報を積極的に発信し、材料メーカー様や最終製品メーカー様などの理解促進に努めています。」と話します。
PFAS分析における三重県環境保全事業団の強み
様々な分析機関がPFASの分析を行うようになってきていますが、事業団の強みは何でしょうか?
その1つとして、「オーダーメイド試験」が挙げられます。オーダーメイド試験とは、お客様の要望の試験をお客様と相談しながら決めていくものです。瀬古氏は「お客様の目的をしっかり把握できるよう、しっかりコミュニケーションをとることを心がけています」と話します。たとえば、作業環境のPFAS測定は、お客様からの要望に基づき、オーダーメイド試験として始めたものです。また、排ガスのPFAS測定についてもオーダーメイド試験として始めたものがあります。事業団では、当初は日本の環境省の仕様のみに対応していましたが、お客様からの要望により、US EPA(米国環境保護庁)仕様の複雑な方式にも対応するようになりました。橋本氏は「海外の規格なども含めて、最新の情報を入手するように心がけています」と話しています。
もう1つの強みが「多成分のPFASおよび関連物質の分析に対応する点」だと言います。PFASには数千から1万種類以上の化合物がありますが、これまでもお客様の要望にあわせて、分析できる化合物の種類を増やしてきました。古川氏は、「お客様のご希望される測定項目について、クロマトグラフィー分析で対応可能であり、かつ標準物質の入手が可能であれば、積極的に分析方法の検討を進める方針としています。標準物質が手に入らない場合でも代替案を提案できるよう心がけています。なお、この方針はPFAS分析に限らず、その他の環境負荷物質に関するご相談についても同様に対応しています。」と話しています。
PFAS分析で活躍する分析機器
事業団ではトリプル四重極 液体クロマトグラフ質量分析計 (LC/MS) を6システム保有し、そのうちPFAS分析用として3システム使用しています。PFAS分析用として使用している3システムのうち、2システムはアジレント製のトリプル四重極LC/MSです。2023年に導入した「Agilent 6470 トリプル四重極 LC/MSシステム」と、2024年に導入した「Agilent 6475 トリプル四重極LC/MSシステム」の2機種です。6470は主に材料中のPFAS分析に使用しています。当初6475は農薬のスクリーニング分析やその他の材料分析などを行うために導入しましたが、現在は分析依頼が急増したPFAS分析に使われることが多く、特に排ガス等、汚れの多いサンプルの分析に用いられていると言います。アジレントのLC/MSを使用する理由について、古川氏は「感度が十分であれば、ソフトウェアの使いやすいアジレントの装置を選びます。また、我々は分析装置を酷使しますが、アジレントの装置は堅牢性が高く汚れに強いですし、自分でメンテナンスできるところが多いのも選定した理由です。」と話します。また、質量分析計の前段に取り付ける液体クロマトグラフ (LC) については3システムともアジレントのInfinity LCを使用していますが、その理由は「キャリーオーバーが少ないから」(古川氏)といいます。
PFAS専用機となっているAgilent 6470 トリプル四重極LC/MS
排ガス等、汚れの多いサンプルのPFAS分析に使用されているAgilent 6475 トリプル四重極LC/MS
かつてはPFASの測定に用いられていたAgilent 6460 トリプル四重極LC/MS。事業団では、PFAS用とそれ以外の用途を含め、アジレントのトリプル四重極LC/MSが4システム稼働中です
事業団では、PFAS分析にガスクロマトグラフ質量分析計 (GC/MS) も使用しています。フルオロテロマー化合物やペルフルオロアルキル基を有する化合物など、PFASおよび関連物質の中には、GC/MSで測定するのが適した化合物もあるからです。古川氏は「多成分のPFASおよび関連物質の分析に対応できるのが当事業団の強みです。これまでもお客様の要望に合わせて分析できるPFASおよび関連物質の項目数を増やしてきましたが、今後もその種類を増やしていきます。」と話しています。
フルオロテロマー化合物やペルフルオロアルキル基を有する化合物などは、トリプル四重極GC/MSで分析
事業団の持つ知見を共有して、環境保全につなげる
三重県環境保全事業団では、環境保全への貢献を目的に、業務や他の機関との共同研究などで得られた知見を、学会発表、セミナー、雑誌への投稿、大学での講義などをとおして、社会に共有しています。アジレントも同じ考え方を共有しており、 “Let’s bring great science to life” (科学の叡智を、生活と生命へ)というメッセージを発しています。PFAS分析に関して、アジレントは様々な分析ソリューションを提供しているほか、ウェブサイトやアプリケーションノートなどを通じて情報発信を続けています。
PFASのほか、現在、製品検査において受託業務が増加傾向にある物質として古川氏が挙げるのが、難燃剤、可塑剤、潤滑剤などに使われる「塩素化パラフィン」、塩素系難燃剤に使われる「デクロランプラス」、紫外線吸収剤「UV-328」です。これらの分析においてもすでに実績があると言います。古川氏は「POPs(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)で規制対象物質に追加された物質の分析には迅速に対応していきます。得られた知見は積極的に発信していくので、ぜひ環境保全に役立てていただきたい」と締めくくっています。
 |
一般財団法人 三重県環境保全事業団
所在地:三重県津市河芸町上野3258番地
創業:1977年(「財団法人 三重県環境保全事業団」として。2013年に「一般財団法人 三重県環境保全事業団」に移行)
事業概要:
科学分析事業(水道水・温泉・浴槽水・食品・放射能・水質・土壌・底質・廃棄物・大気・騒音・振動・製品検査・品質管理分析等)
環境コンサルティング事業(環境アセスメント・自然環境調査・生活環境調査・一般廃棄物コンサルティング・土壌汚染調査等)
廃棄物処理事業(産業廃棄物の最終処分)
|
本記事に掲載の製品はすべて試験研究用です。診断目的にご利用いただくことはできません。
(Not for use in diagnostic procedures.)
DE-007436
|