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お客様紹介:60年間化学分析に取り組んできた東北大学 山崎 慎一博士が語る、便利になっても忘れてはいけない分析の心構えとは

2019年8月27日

1960年に九州大学農学部農芸化学科を卒業して以来、約60年間一貫して化学分析に取り組んできた東北大学大学院 環境科学研究科 地球物質・エネルギー学研究室のリサーチフェロー 山崎 慎一博士。「その時々で新しくておもしろそうな分析法が出てくる度に試してきました」と自身の”分析屋”としての人生を振り返ります。

 

東北大学大学院環境科学研究科

地球物質・エネルギー学研究室 リサーチフェロー

山崎 慎一博士

1994年には「土壌 ・ 植物体・水資料中の多量、微量及び超微量元素の機器分析法の開発」という研究テーマで日本土壌肥料学会賞を受賞。2001年に東北大学農学部を定年退職した後も、民間の研究所や国内外の大学での分析業務のほか、エルサルバドル共和国をはじめとする海外での分析技術指導など、幅広くそして精力的に活動してきました。

今回はそんな山崎博士に、現在使用している分析機器について、化学分析の歴史を踏まえながらお話いただきました。また、山崎博士が携わっているエルサルバドルにおける研究プロジェクトの概要についてもご紹介いたします。

約60年間、常に新しい分析に挑戦しつづけてきた

1960年代から化学分析に取り組んできた山崎博士。当時は手分析が主流でしたが、新しかったドイツ製の炎光光度検出器で機器分析も行っていた覚えがあるといいます。その後、原子吸光、プラズマ発光分光、蛍光X線など、次々に新しい機器分析法が登場するなか、常に新しい分析に挑戦しつづけてきました。

山崎博士は、特に土壌肥料学分野を中心に分析を行ってきました。これまで対象としてきた物質ついて「土壌を研究している人でも、土の中の元素について分析している人はいまだに少ない。私は、窒素、リン、カリウムといった植物の必須元素や、土壌中のカルシウム、マグネシウムといった金属元素の分析法の改良に着目してきました」と話します。

 

また山崎博士は、ブラジルやアルゼンチン、パキスタンなど海外において、イオンクロマトグラフィ、ICP-AESやICP-MSを使った分析技術の指導にも積極的に取り組んできました。そして現在では、国際的な研究プログラム SATREPSにおいて、中米のエルサルバドルの現地スタッフに対する分析技術指導を行っています。

エルサルバドルでの地熱資源探査に向けたプロジェクト

SATREPSとは、科学技術振興機構(JST)と国際協力機構(JICA)が共同で実施している地球規模の課題へ対応する国際的な科学技術協力プログラムです。山崎博士が現在所属する研究室の土屋範芳教授が代表を務める「熱発光地熱探査法による地熱探査と地熱貯留層の総合評価システム」では、エルサルバドルの地熱エネルギー利用および地熱開発の候補地の検証・評価に向けて、効率的で安価な地熱探査を進めています。山崎博士は、同プログラムにおいて主に現地のスタッフに対して分析技術の指導を行っています。

「エルサルバドルは、中米の火山がある地帯です。現地で地熱探査を進めるに当たっては、たとえば地下から吹き出してくる水の有害成分について分析を行うなど、環境モニタリングが必須となります。私は、現地のスタッフが自身で分析を行えるよう、日本でICP発光分光分析装置(ICP-OES)や蛍光X線分析装置の使い方を指導しています。測定する元素は、ナトリウムやカルシウム、マグネシウムなどが中心になりますが酸性になるとアルミニウムや鉄、硫黄も検出されます。今後は装置の持つ多元素同時分析機能を最大限に利用し、数多くの元素の分析にトライし、あわよくば、白金族元素等が出てきたらおもしろいなとも思っています」(山崎博士)

今年も3人ほどのスタッフがエルサルバドルから来日予定だといいます。その際、山崎博士は、メソッドワークシートの作成方法や、導入系の洗浄、ネプライザの取り付け、トーチの取外しなどICP-OESのメンテナンスの方法について技術指導を行うとしています。

使いやすくても、出てきた数字を鵜呑みにするのは厳禁

同プロジェクトで活用されているICP-OESは、アジレントの最新機種であるAgilent 5110です。山崎博士がICP発光分光分析を初めて行ったのは、1980年代。マルチチャンネル型のICP-OESが納入された東北農業試験場にて、蛍光X線分析のために調製したナトリウムとマグネシウム用の分解液を中心に、毎年300点近い試料の分析を行っていたといいます。

5110 ICP-OES

ICP-OESをはじめ、昔から数々の分析機器に触れてきた山崎博士。現在使っているAgilent 5110をどうみているのでしょうか。山崎博士は、「以前使っていた他社製のICP-OESに比べて、ソフトウェアの使い勝手は格段に良くなりました。測定した元素の濃度が画面に表示される際、以前の装置ではそのデータを一旦どこかに移し替えてからExcelに出力するという作業が必要でしたが、Agilent 5110では、一発でExcelに出力することができます」と、そのソフトウェアの使いやすさについて高く評価します。

さらに、元素の表示順を目的に応じて変更できる点も便利だといいます。「以前の装置では、元素はアルファベット順または波長順に表示されていましたが、やはり化学分析を行う者としては、原子番号の順番に出して欲しい。地球科学分野の人々からすると、シリカ、チタニア、アルミナ……、と表示してほしいという要望もあります。いろいろな人がさまざまな使い方をするので、表示される元素の順番を目的に応じて並び替えることができるAgilent 5110はとても便利です。以前の装置では、Excelのなかで順番を並び替える必要がありましたが、それが不要になったわけですから」(山崎博士)

研究目的に応じ表示順を入れ替えることができる

ただし、欲しいデータを簡単に得ることができるようになったぶん分、山崎博士は「出てきた数字を鵜呑みにしてしまってはいけない」と、警鐘を鳴らします。

「現在ではコンピュータが適切に調整してくれるため、簡単に欲しいデータを得ることができますが、ICP発光分光分析は本来鉄だけでも数千本の発光線があることからも考えられる通り、根本的には難しい分析法のひとつです。数字で結果が表示されるとなんとなく正しい気がしてしまいますが、その数字を鵜呑みにしてしまうと間違いを犯してしまうことに繋がります。

出てきた数字をそのまま受け入れて論文に書くのであれば、それは『化学計測』であって『化学分析』ではないと私はこれまで言ってきました。いま自分が分析している試料はどういうものなのか、どういう元素がどれくらい入っていそうなのかという見当をつけて測定しないと、それは分析とは呼べません。得られた数値を見て一喜一憂している間は、まだ素人です。出てきた結果をよく考えて、場合によっては分析をし直すことも必要です」(山崎博士)

長年化学分析に取り組んできたからこその説得力ある知見やノウハウを、山崎博士はこれからも、多くの人たちに伝えていきます。