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お客様紹介:ガスクロマトグラフのネットワーク化で業務効率を改善-株式会社ダイセル 大竹工場

2019年1月30日

広島県大竹市。錦帯橋で有名な山口県岩国市と隣接する県境の市で、岩国・大竹の一帯は日本の石油コンビナート発祥の地とも言われています。現在も化学関連工場が密集しており、ひときわ活況を呈する地域となっています。今回お邪魔したのは、株式会社ダイセルの大竹工場。東京ドーム10個分もの敷地内に800人が働くダイセル大竹工場では、(1)自動車用塗装や電子材料に使われる機能性樹脂、(2)塗料や化粧品などに使われるエステル・アルコール、(3)食品包装材や界面活性剤として使われる過酢酸誘導体、(4) 衣料品や染料の原料となるアミン類などが生産されています。大竹工場では、2018年初めに、ガスクロマトグラフ (GC) の管理にネットワーク型クロマトグラフィーデータシステム (CDS: Chromatography Data System) を導入し、業務の効率化を図っています。今回は、導入の背景やその効果について、ダイセルの皆さんにおうかがいしました。

写真1 株式会社ダイセル 大竹工場

 

化学の無限の可能性を信じ、生活の豊かさに貢献する株式会社ダイセル

セルロイドメーカー 8社が合併して、大日本セルロイド株式会社(現在の株式会社ダイセル)が誕生したのが1919年。今年で100周年を迎える歴史の長い企業です。同社の事業はセルロイド製造から始まっています。セルロイドは加工しやすいというメリットがあった一方、可燃性が高いという欠点がありました。当時のセルロイドの用途の1つが、映画用フィルム。貴重な記録映像を長期にわたって保存できるようにするため、燃えないセルロイドを提供したい。そこで開発されたのが難燃性の酢酸セルロースでした。酢酸セルロースを製造するのに必要な酢酸を化学合成で製造するようになったことから、有機合成品にも事業が拡大。現在では、有機合成品、セルロース製品、合成樹脂製品(プラスチック)、エアバッグ用インフレータ・防衛装備品などを提供し、化学の無限の可能性を信じ、人々の生活の豊かさ向上に貢献しています。ダイセル製品は私たちの身の回りの様々な分野で活躍中ですが、同社の名前と評判をさらに高めることになったのが「知的生産統合システム」「ダイセル方式の生産革新手法」といっても良いでしょう。同社の網干工場で、「次世代型化学工場」をコンセプトに「人・仕組みの革新」「生産システムの革新」「情報システムの革新」の3つの革新を進めました。人の生産性を3倍に、作業負担を1/5にするとともに、品質向上にもつながった活動です。他の化学メーカーをはじめ、化学メーカー以外からも参考にしたいという希望が寄せられ、累計で8000人以上が見学に訪れたといいます。徹底した「ミエル化」が特長の1つとなっているこのダイセル生産革新手法は、大竹工場にも導入され、省人化して、安定的な生産が可能になったといいます。

写真2 私たちの身の回りの様々な分野で活躍していくダイセル製品

 

大竹工場 品質保証部の悩み

今回訪問した大竹工場 品質保証部では、大竹工場で生産された有機合成品やセルロース製品の検査業務全般を担っています。生産された製品が正しくできているかを調べる工程検査、出荷前にドラム缶などに詰められた製品を一部抜き取って検査する製品検査、開発部門などからの受託分析などを担っており、分析するサンプルや目的などにあわせて、GC、液体クロマトグラフ (LC)、滴定装置などの分析機器を利用しています。

従来、GCについては、装置1~2台に対しパソコンを1台接続する環境(スタンドアロン)で利用してきましたが、この環境ではいくつかの課題が顕在化してきました。

  1. GCメーカーが異なると制御するソフトウェアが異なる。また、同じメーカーでも複数のソフトウェアが存在する。ユーザーがそれぞれのソフトウェアの操作を習得するのに時間がかかる。
  2. 制御用のパソコンや、そのパソコンで動作するソフトウェアに不具合が発生すると、GC自体は正常であっても、分析ができなくなってしまう。製品検査のための分析を行う場合、製品の出荷作業に影響してしまう。
  3. クロマトチャート(クロマトグラム)を印刷し、検査記録帳に転記するのに手間がかかる。さらに、別のシステムにデータを入力する必要がある。転記やデータ入力の際にヒューマンエラーが生じる可能性がある。将来的に、自動で別のシステムにデータを送信できるようにするためには、1つのソフトウェアで複数のメーカーの装置を制御できる必要がある。

ネットワーク対応のCDS「Agilent OpenLab CDS」

これらの問題を解決するために導入したのが、「Agilent OpenLab CDS」でした。OpenLab CDSは、クロマトグラフや質量分析計の分析メソッドや、分析結果であるクロマトグラムなどを管理するネットワーク対応のCDSソフトウェアです。「検査部門の将来像を皆で議論し、検査作業を機械化・自動化したいとの意見を中期計画に反映させ、経営層の支援を得て部門一丸となって取り組んだ。」(有機合成カンパニー 大竹生産センター 品質保証グループ 前嶋 尚 氏)結果、導入に至ったといいます。2018年3月の稼動時には、アジレント・テクノロジーのGC「Agilent 7890 GC」 13台を接続。サーバーですべてのソフトウェアを動かし、ユーザーはリモートデスクトップ経由でアクセスするため、ユーザーのパソコンにはOpenLabソフトウェアをインストールする必要がないのが特長です。また、使用できるGCもパソコンに左右されず、いずれのパソコンからでもネットワーク上のGCすべてが使用できるようになりました。つまり、ネットワーク上のどのパソコンからでもOpenLabが利用でき、すべての端末からすべてのGCが利用できるのです。

 

写真3 OpenLabのサーバー、クライアント、そのほか必要なソフトウェアは、このサーバーで動作している。

写真4 ユーザーは、自席のパソコンからリモートデスクトップでOpenLab CDSにアクセスする。ユーザーのパソコンにはOpenLabソフトウェアをインストールする必要はない。

 

導入後数か月で現れた成果

数か月もすると、いくつかの効果が現れ始めました。「当社のお客様が、監査のために工場にいらっしゃることがあります。OpenLabで管理していることを紹介すると、非常に興味を持っていただけます」と品質保証部の山田 司 氏は話しています。

「分析の依頼者からクロマトグラムを見せてほしいという要求が減少しました」(前嶋 氏)。他部門の人でも自分のパソコンからデータを見られることから、わざわざ品質保証部に連絡して、キャビネットに保管されている紙のクロマトグラムを探してもらう必要がなくなったのです。広大な大竹工場ですから、今までは「ちょっとクロマトグラムを見たい」と思っても、わざわざ自転車で移動しなければならないこともありました。自分の居室からデータを見られるようになったというだけでも、業務効率の改善につながっています。山田 氏は、「日付などを指定して、必要なデータにたどり着ける」と検索機能に満足されています。キャビネット内の紙データを探し出すのと比べたら、雲泥の差と言えるでしょう。

写真5 キャビネットに保管されているクロマトグラム

 

使いたいGCが使用中だった場合に、他のGCで分析を行いたい場合もあります。「OpenLabなら、5分もあれば分析メソッドを他のGCにスムーズに移管できる」(山田 氏)と、サーバーで分析メソッドを共有できるメリットを実感しています。GCの稼働状況が一覧で見られ、機器管理の効率化にもつながっています。その一方で心配も。「他部門から依頼分析を受けた際、依頼者がOpenLab上で状況を確認して、『まだ試料を装置にセットしていないではないか』と、督促してくるようになるかも…」(前嶋 氏)と、冗談まじりに話しています。また、2度3度繰り返して、データを取った場合でも、検討の結果、最初のデータを採用することもあります。「システム上、すべてのデータが残るので、他部門から『どうしてこのデータを採用したのか説明してほしい』と言われることも出てきます。検査する側も、説明責任を果たせるように慎重にならないとなりません。」(大竹工場 品質保証部長 道津 邦彦 氏)と言います。

 

写真6 GCの稼働状況を「ミエル化」。今後機器管理の効率化が期待できる。

 

デジタルデータが蓄積されていくことも、将来的にメリットになると考えています。「今は正体が分からない不純物のピークがあったとします。これらがどんどん蓄積されていってから、あらためて解析をかけてみたら、従来は分からなかった何かが見えてくることもあるかもしれません。重要な品質改善につながる可能性があります」(前嶋 氏)。紙のデータの場合、キャビネットのなかでデータが蓄積されていっても、そのデータを生かしにくいのです。

 

表1 ダイセル 大竹工場様が感じているAgilent OpenLab CDSのメリット

 

ダイセル内の他拠点からも反響があると言います。OpenLabについて、他事業所の研究員に紹介したところ、「これがあれば仕事がはかどるだろうな」という意見も寄せられました。さらに、口コミでそのメリットが社内に浸透しつつあります。

ソフトウェアの一本化、手書きの廃止に向けて

第1期はアジレントのGCのみを接続しているため、1つのソフトウェアでメーカーを問わずすべてのGCを制御したいというニーズは満たされていません。「GCをOpenLabに接続する計画は、3期に分けて考えています。第1期ではアジレント製のGCを、第2期では他社製GCの一部を、第3期では他社製のGCの残りを接続するという計画です。非常に順調に稼動しているので、第3期では、前倒しでLCも組み込んでいこうとしています。」と山田 氏は話しています。第3期まで進めば、複数のソフトウェアの操作を習得する時間とコストが削減できるようになります。その後は、OpenLab環境を上位のシステムとも接続する計画だといいます。ここまでくれば、手計算・手書き・間違い探しが不要となり、転記やシステム入力に伴うヒューマンエラーも削減できるようになります。

写真7 第1期では、Agilent 7890 GCシステム 13台をOpenLabで管理。今後は、他社製GCやLCもOpenLab環境下で使用していく計画

 

ダイセル様にとっても、お客様から製品品質や検査部門の管理体制に対する要求が年々厳しくなってきています。社内においては働き方改革のもと、従業員の負担軽減とトレーサビリティーの確保や検査データの改ざん防止を含めた次世代の検査保証体制の強化・構築が求められており、そのために検査機器のネットワーク化は不可欠な手段だったといいます。このたびOpenLabの活用で、「ますます安心で、信頼される検査部門へ変わる大きなチャンスを得た」と感じているそうです。ダイセル様は、今後もIoTを活用した高品質なモノづくりを追求していきます。

写真8 OpenLab導入に関わったダイセル 大竹工場 品質保証部および有機合成カンパニーの皆様と、システム導入に関わったアサヒ情報システム様