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ビールの香り分析で「香りの設計図」を作る ~アサヒグループ研究開発センター(アサヒグループホールディングス株式会社/アサヒビール株式会社)~(1/3)

2016年6月30日

日本を代表するビールとなったアサヒ・スーパードライ

キレのあるビールとして、大ヒットしたアサヒ・スーパードライ。2015年もビール系飲料の国内売上げNo.1を獲得し、6年連続で首位をキープしています。スーパードライを初め、ビール関連商品の開発に欠かせないのが“香り”の分析。人間の感覚だけではなく、「分析」という科学の力で効率化と安全性の向上を図る取り組みを取材するため、茨城県守谷市にあるアサヒグループ研究開発センターを訪ねました。

 

茨城県守谷市にあるアサヒグループホールディングス株式会社の研究開発センター

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香りの設計図を作るため
ホップの香味成分を分析する

アサヒグループ研究開発センターは、アサヒビール株式会社をはじめ、アサヒグループの複数の研究開発部門が集まっています。研究員は約380名。ビール会社としては、世界最大級の研究所だということです。

アサヒグループホールディングス株式会社のグループ食の安全研究所 探索技術開発部 上席主任研究員の坂井浩晃さん。

今回は、“ビールの香り”について研究するお二人にお話をうかがいました。1人は、アサヒビール株式会社 研究開発本部 酒類技術研究所 技術第一部 上席主任研究員の岸本徹さん。ビールの香りを分析し、新製品の開発などに活かす仕事をされています。もう1人はアサヒグループホールディングス株式会社のグループ食の安全研究所 探索技術開発部 上席主任研究員の坂井浩晃さん。アサヒグループ全体の食の安全を追求する中で、特に揮発性成分(主に香り)の研究をしています。

まず、酒類技術研究所の岸本さんからお話を聞きました。

 

 

 

アサヒビール株式会社 研究開発本部 酒類技術研究所 技術第一部 上席主任研究員の岸本 徹さん

「そもそも、なぜ香りの分析が必要かについて、お話させてください。同じ品質のものを大量に製造するためには、設計した商品の味や香り、そして品質を分析値に落とし込み、それを製造工程で管理する必要があります。中でも香りは基本五味で成り立つ味に比べてバラエティに富み、差別性のある商品を創り出しやすいという利点があります。味感にも大きな影響を及ぼします。実際、味覚障害を訴える人の6割は嗅覚の異常が原因と言われています。したがって、味ももちろん大事なのですが、それ以上に香りが与えるインパクトは大きく、香りを分析値で表現できれば、品質の管理が非常に容易になります。また、こうした分析値を応用することで、多様な香りの商品を容易に生み出すことができることになります。
つまり、(1) 製造工程では設計通りの香りを維持管理する『品質管理』という意味で、(2) 商品開発では香りをコントロールし、商品の意図に合わせた『設計』という意味で、香りの分析が重要だということです」
岸本さんの仕事では、特に商品開発のための分析が多くを占めています。
ビールはおおよそ次のような工程で製造(醸造)されます。
  1. 浸麦槽でビール大麦に水分を含ませ、発芽室で発芽させます。これが麦芽です。
  2. この麦芽を乾燥室で熱風により焙燥。この時、ビール独特の芳しい香りを持つようになります。
  3. 細かく砕いた麦芽と米などの副原料、そして温水を混ぜ合わせます。適度な温度にすると、麦芽の酵素の働きででんぷん質が糖分に変わり、糖化液の状態になります。
  4. 糖化液を濾過し、ホップを加えて煮沸します。ホップは苦みと香りをつけ、同時に麦汁中のタンパク質を凝固分離させて、液を澄ませる働きをします。こうしてできあがるのが熱麦汁です。
  5. 熱麦汁を10℃程度に冷却し、発酵タンクに入れ、酵母を加えます。こうして1週間程度おくと、酵母の働きで糖分がアルコールと炭酸ガスになります。これが発酵です。できあがったものは「若ビール」と呼ばれます。
  6. 若ビールをタンクに入れ、0℃程度の低温で数十日間貯蔵します。ビールはゆっくりと熟成します。これを濾過するとビールの完成です。
製造期間は2〜3か月かかるため、試行錯誤を繰り返しながら目的の商品を作るまでには膨大な時間を要することになります。ビールには約5000年の歴史がありますが、職人の経験と勘によって、このような製造工程で多種多様な香りと味が生み出されてきました。
岸本さんの研究は、この職人の経験と勘の部分を科学の力で数値化して、活用しようというのです。